【特定技能】フィリピン人を採用する際に知っておくべき流れ・費用・注意点まとめ
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人材不足が深刻化する中、多くの業界で外国人材の活用が進んでいます。その中でもフィリピン人材は、英語力の高さや勤勉さから注目されています。
しかし、特定技能でフィリピン人を採用する場合、他国と比べて手続きが複雑で時間もかかるのが現実です。
本記事では、フィリピン人を特定技能で採用する際に知っておくべき流れ・費用・注意点をわかりやすく解説します。
合同会社エドミール 代表社員
武藤 拓矢
2018年に外国人採用領域の大手企業に入社し、技能実習・特定技能・技人国の全領域に携わる。のべ600名以上の採用支援実績をもとに、登録支援機関「合同会社エドミール」を設立。2025年には4つの商工会議所で「外国人活用セミナー」の講師を務める。
武藤 拓矢のプロフィールフィリピンは世界最大の労働力輸出国
フィリピンは世界的にも国外在住労働者の人数が多く、世界的な労働に関する国際基準を定める国際労働機関(ILO)のデータによれば、フィリピンは世界で10番以内に誇る国外在住労働者の数を有する「世界最大の労働力輸出国」です。
フィリピンの民放大手であるGMA Network, Inc.によれば出稼ぎ労働者含む海外で働いているフィリピン人の数は1,080万人を超えており、これは国民の10%を占める割合です。
フィリピンがいかに労働力輸出国であるかがわかるかと思います。
この「世界最大の労働力輸出国」という前提を踏まえて、フィリピン人を採用する際の解説をしていきます。
特定技能でフィリピン人を採用する上で重要な2つの注意点
フィリピンは世界最大の労働力輸出国であるがゆえに、日本で採用する際には2つの注意点があります。それが「管理体制」と「公用語が英語」であることです。
世界一厳しい「多段階分散型」管理の仕組み
前提として、外国人が日本で働くためには、日本での「入国許可証(COE)」と該当国の「出国許可証(OEC)」が必要となります。
その上で、多くの国では「中央官庁」と「認定送り出し機関」が出国許可証を担当しているのですが、フィリピンで4つの機関の審査を経て出国許可証を取得する必要があります。
| MWO(旧POLO) | 日本企業の雇用主認定と契約認証 |
|---|---|
| DMW(旧POEA) | 本国で求人票(Job Order)を承認 |
| OWWA / PDOS | 福利厚生基金加入と出国前オリエンテーション |
| BI | 空港でOECなどを確認し出国許可 |
これらの審査には最大で2か月程度かかります。一方、日本側の在留資格認定証明書(COE)は通常2〜4か月かかるため、両国の手続きを同時並行で進めるのが基本です。
ただし、フィリピンの出国許可証(OEC)を発給する段階では、必ず日本のCOEコピーを提出する必要があります。つまり、他国であれば出国許可証と入国許可証を完全並行で進められますが、フィリピンの場合はDMW→OEC発給の途中でCOEが必要になるため、2〜4週間程度スケジュールが後ろ倒しになる傾向があります。
そのため、フィリピン人材を採用する際は「日本側COEの遅延=フィリピン側のOECも止まる」という構造を理解し、余裕を持った採用計画を立てることが重要です。
公用語が英語圏であるが故に高給与国と比較される
もう一つの注意点は「公用語が英語」であることです。フィリピン人材は、特定技能を含めて出稼ぎ先を選ぶ際、日本だけでなくオーストラリアやカナダといった英語圏の高給与国とも比較しています。これらの国では給与水準が日本の1.5〜2倍に達するため、特に大学卒以上の高学歴層ほど英語圏に流れるリスクが高いのです。
日本でフィリピン人を採用する場合は「給与水準」「福利厚生」「長期的なキャリア支援」など、英語圏と比較されても選ばれるだけの魅力を提示できるかどうかが鍵になります。
特定技能でフィリピン人を採用するための仕組み・全体像
フィリピン人を特定技能で採用するためには、日本側での「入国許可証(COE)」の申請と、フィリピン側での「出国許可証(OEC)」の取得が欠かせません。これに加えて、特定技能制度で義務付けられた支援を行うことで、ようやく就労が可能になります。ここでは、日本側・フィリピン側それぞれの手続きと、必要な支援について整理します。
日本側の「入国許可証(COE)」
日本で外国人を雇用する際には、まず出入国在留管理庁に「在留資格認定証明書(COE)」を申請します。COEは「この外国人が特定技能として就労して良いか」を日本政府が確認するための証明書で、通常2〜4か月ほどかかります。COEが発給されないと在留資格が下りないため、採用計画は必ずこの期間を見込む必要があります。
フィリピン側の「出国許可証(OEC)」
フィリピン人材は出国時に「海外雇用許可証(OEC)」が必須です。これはフィリピン政府が「この労働者は合法的に海外で働く条件を満たしている」と認めた証明書であり、空港での最終チェックにも使われます。OECの取得には、求人票(Job Order)の承認、契約認証、OWWA加入、出国前研修(PDOS)といった複数の手続きを経る必要があります。
特定技能制度で必要な義務的支援
特定技能人材を受け入れる企業には、住居の確保、生活オリエンテーション、日本語学習の機会提供など「義務的支援」が課されています。これは外国人材が安心して日本で働ける環境を整えるために必須の支援であり、登録支援機関に委託するケースが一般的です。支援を怠ると罰則が科される可能性もあるため、制度理解と実行が欠かせません。
特定技能でフィリピン人を採用する仕組み
それでは具体的に、フィリピン人を特定技能で採用する際の流れを見ていきましょう。採用までには8つのステップを順に踏む必要があります。
- STEP1:MWO(旧POLO)で雇用主登録
- STEP2:DMW(旧POEA)で求人票(Job Order)承認
- STEP3:人材募集・採用選考
- STEP4:日本側「入国許可証(COE)」を申請
- STEP5:MWOで雇用契約の認証
- STEP6:OWWA加入・出国前研修(PDOS)
- STEP7:出国許可証(OEC)の申請・発給
- STEP8:渡航・入国・就労開始
それぞれのステップについて解説していきます。
STEP1:MWO(旧POLO)で雇用主登録
日本企業がフィリピン人を採用するためには、まずMWOに雇用主として登録される必要があります。初めての企業は必須で、一度認定されれば次回以降の手続きは簡略化されます。
STEP2:DMW(旧POEA)で求人票(Job Order)承認
フィリピン本国のDMW(海外雇用省)が求人票を審査し、給与水準や労働条件が適正かどうかを確認します。ここで承認を受けて初めて、合法的に人材募集が可能になります。
STEP3:人材募集・採用選考
DMWで承認された求人票を基に送り出し機関が人材を募集。候補者が集まり、面接や試験を経て採用が決定します。
STEP4:日本側「入国許可証(COE)」を申請
採用が決まった候補者について、日本側で在留資格認定証明書(COE)を申請します。COEはOEC発給時にも必要となるため、フィリピン側の手続きと並行して早めに申請するのがポイントです。
STEP5:MWOで雇用契約の認証
日本企業と候補者が締結した雇用契約をMWOが審査し、内容が適正かどうかをチェックします。不備がある場合は差し戻されるため、経験豊富な支援機関を通すのが望ましいです。
STEP6:OWWA加入・出国前研修(PDOS)
労働者本人がOWWA(海外労働者福祉庁)に加入し、PDOS(出国前オリエンテーション)を受講します。労働者の安全と適応を支援するための必須ステップです。
STEP7:出国許可証(OEC)の申請・発給
日本側のCOEが発給された後に、そのコピーを提出してOEC(出国許可証)を申請します。OECがなければフィリピン人は出国できないため、最重要の手続きといえます。
STEP8:渡航・入国・就労開始
最終的にBI(フィリピン入管局)の出国審査を通過し、航空機で日本に渡航します。入国後に特定技能ビザを取得し、就労を開始します。
フィリピン人を特定技能で採用する際の費用
特定技能全体で発生する費用とフィリピン独自で発生する費用について解説します。
特定技能制度共通で発生する費用
| 人材紹介料 | 20〜40万円 |
|---|---|
| 初期導入費用 (各種義務的支援) |
2〜4万円 |
| 支援委託費用 | 2〜4万円 |
| 在留資格申請費用 | 5〜15万円 |
| 住居初期費用 | 20万円前後 |
| 交通費・日用品費 | 10〜30万円 |
※ 建設の場合は独自の「JAC」と「CUCC」の費用が追加で発生します。
どの国籍から採用しても発生する費用の一覧になります。
フィリピン人を採用する場合、フィリピン側の送り出し機関への支払いが給料の1ヶ月分など高騰していることもあり、人材紹介料が他の国籍よりも高額になることがあります。
ただし、ベトナムやフィリピンなど他の特定技能制度で人気の諸外国よりも発展している国は、労働条件によっては「住宅初期費用」や「交通費・日用品費」の費用が発生しないケースもあります。
続いてはフィリピン独自で発生する費用についてです。
フィリピン独自で発生する費用
フィリピンは出国許可申請のステップが多いため、それぞれで細かな手数料が発生します。具体的には以下のよう項目です。
- OWWA加入費用:25米ドル(約3,000円、2年間有効)
- OEC発給手数料:100〜200ペソ(約250〜500円)
- 健康診断(PEME):4,000〜6,000ペソ(約1万〜1.5万円)
- 日本語試験・技能試験:1回あたり2,000ペソ前後
- ビザ申請料:3,000〜6,000円
- 航空券:相場5万〜10万円(原則は雇用主負担)
政府手数料そのものは比較的安価ですが、健診や試験、航空券などを含めると、1人あたり10〜20万円前後を想定しておく必要があります。なお、フィリピン人材の送り出しは「ノー・プレースメント・フィー」が原則で、候補者から費用を徴収することは禁止されており、基本的に企業側が負担します。
フィリピンと他国の比較(ベトナム・インドネシア・ネパール)
| 国名 | 制度の特徴 | チェック機関 | 出国までの難易度 |
|---|---|---|---|
| フィリピン | 多段階分散型、最も厳格 | DMW・POLO・OWWA・BI | 高い |
| ベトナム | MOLISA+送り出し機関で集約 | MOLISA、研修機関 | 中 |
| インドネシア | BP2MI集中型 | BP2MI | 中 |
| ネパール | DoFE+送り出し機関 | DoFE、オリエンテーション | 中〜低 |
フィリピン人材採用で失敗しないためのポイント
注意① 英語圏との給与比較を常にされる
特定技能を含め、外国人材の多くは「より稼げる国」を基準に渡航先を選びます。フィリピンは英語が公用語のため、オーストラリアやカナダといった高給与圏が比較対象に入りやすいのが特徴です。日本の給与水準が低く映る場合、定着率に影響する可能性があります。
注意② 手続きが長期化しやすい
フィリピンはDMW・POLO・OWWA・BIと多段階のチェックが入るため、他国よりも出国までに時間がかかります。採用スケジュールには余裕を持たせましょう。
注意③ 登録支援機関と送り出し機関の経験がカギ
フィリピン人材の送り出しは制度が厳格な分、経験の浅い送り出し機関や支援機関を通すと書類不備や差し戻しが多発します。実績のあるパートナーを選ぶことがスムーズな採用につながります。
フィリピン人でよくある質問
Q1. フィリピン人の特定技能採用にかかる期間はどのくらいですか?
日本側の在留資格認定証明書(COE)発行に2〜4か月、フィリピン側の出国許可証(OEC)取得に1〜2か月がかかります。両方を同時並行で進めるのが基本ですが、COEが遅れるとOECも発給できないため、実際には最短でも4〜6か月程度を見込む必要があります。
Q2. フィリピン人を採用する際の費用は他国より高いですか?
はい。フィリピンは送り出し機関の手数料や人材紹介料が相対的に高くなる傾向があります。特に給料1か月分を基準とするケースもあり、ベトナムやネパールと比べて紹介料が割高になることが多いです。ただし、フィリピン政府の「ノー・プレースメント・フィー」方針により労働者本人の負担は禁止されており、基本的に企業側が全額負担します。
Q3. フィリピン人は日本で長く働いてくれますか?
文化的な適応力が高く、日本語学習にも積極的なため短期的には定着率が良い傾向があります。ただし、公用語が英語のためオーストラリアやカナダといった高給与国と比較されやすく、給与やキャリア支援が不十分だと離職リスクが高まる点には注意が必要です。
Q4. フィリピン人採用で特に注意すべき手続きは何ですか?
最も重要なのはMWO・DMW・OWWA・BIという多段階の審査です。特にDMWでの求人承認とPOLOでの契約認証は、書類不備があると差し戻しになるケースが多いため、経験豊富な送り出し機関・登録支援機関を通すことがスムーズな採用につながります。
Q5. フィリピン人はどの業種に向いていますか?
特定技能制度では介護・外食・製造業など幅広い分野で採用が進んでいます。特に介護分野では英語を活かしたコミュニケーション力やホスピタリティが評価されており、製造業分野でも勤勉さから高い評価を得ています。
特定技能でのフィリピン人採用まとめ
フィリピン人の特定技能採用は、日本側のCOEとフィリピン側のOECという二国間の手続きを正しく並行させることが成功の鍵です。管理体制が厳格(MWO/DMW/OWWA/BI)なぶん、スケジュール遅延=採用全体の遅延につながります。以下のポイントを押さえて、計画的に進めましょう。
- 基本フロー: MWO雇用主登録 → DMW求人承認 → 採用選考 → COE申請 → 契約認証(MWO) → OWWA加入・PDOS → OEC発給 → 渡航・就労開始
- 目安期間: COE(2〜4か月)+ OEC(1〜2か月)= 最短4〜6か月を想定(並行進行が前提)
- 費用感: 共通費用(紹介料・在留申請・住居等)に加え、フィリピン独自費用(OWWA・OEC・PEME・航空券など)で1人あたり10〜20万円前後が目安
- 注意点: 英語圏(豪・加)と給与競争になるため、賃金/手当/キャリア支援を明確化。書類は差し戻しリスクが高いので経験豊富な送り出し/登録支援機関と連携
- 計画の勘所: 「COEが出ないとOECが止まる」構造を前提に、COEの早期申請と各書類の先回り準備を徹底
チェックリスト(着手前に確認)
- MWO雇用主登録の要件・必要書類を把握し、不備ゼロで提出できる体制か
- DMW求人票の給与・職務・労働条件が基準充足(英語圏比較も意識)
- COEの申請スケジュール(2〜4か月)を採用計画に確実に組み込み済みか
- 義務的支援(住居・生活オリエンテーション・日本語機会等)の運用設計と担当者/委託先の明確化
- 費用見積り(共通+フィリピン独自)と社内稟議/予算確保が完了
次のアクション
- スケジュール表を作成(COE・OECの目安期間と社内締切を明記)
- MWO登録・DMW求人承認に向けた書類テンプレートを整備(過去差し戻し項目を反映)
- 給与/福利厚生/キャリア設計を明文化(英語圏比較で見劣りしない条件提示)
- 実績のある送り出し機関/登録支援機関と合意形成(SLA・連絡体制・責任分界を文書化)
- 想定費用の社内承認を取得し、支払いフロー(請求/送金/証憑)を決定
フィリピン人材の採用は他国と比べて制度が複雑ですが、しっかりとした準備とパートナー選びによって安定的な人材確保が可能です。自社に合った採用計画を立て、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。