宿泊・ホテルで外国人材を採用する方法【メリット・デメリット、費用】

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インバウンド回復と人手流動化により、宿泊・ホテル業界の人材不足は慢性的です。24時間稼働・繁閑差・多言語対応が重なるため、採用担当者にとっては「安定的な人員計画」と「多言語接客力の確保」が重要な経営課題になっています。

参考:観光庁 公式情報

国内だけでは充足が難しいケースが増え、フロント・ハウスキーピング・F&B・ベル/コンシェルジュなどで外国人人材の受け入れを進めるホテルが拡大。本文では、採用ルート・主な出身国の傾向・費用・リスクと対策・採用までのスケジュール・活用できる支援策を整理します。

合同会社エドミール代表社員・武藤拓矢

合同会社エドミール 代表社員

武藤 拓矢

2018年に外国人採用領域の大手企業に入社し、技能実習・特定技能・技人国の全領域に携わる。のべ600名以上の採用支援実績をもとに、登録支援機関「合同会社エドミール」を設立。2025年には4つの商工会議所で「外国人活用セミナー」の講師を務める。

武藤 拓矢のプロフィール

外国人ホテル人材を採用する4つの方法

外国人が日本で就労するには在留資格が必要です。宿泊・ホテル分野で実務に直結しやすい主要ルートは次の4つです。役割(即戦力/育成)や雇用期間に合わせて選定しましょう。

結論として、採用のしやすさ・即戦力性・在留期間のバランスが良く、初めての受け入れにも適しているのは「特定技能1号(宿泊)」です。

武藤 拓矢

特定技能専門家

武藤 拓矢

ホテル現場での初採用は「特定技能1号(宿泊)」が扱いやすいです。多言語接客や清掃品質など現場スキルの要件が明確で、登録支援機関と連携すれば生活・職場サポートも構築しやすく、早期の戦力化が可能です。

在留資格① 特定技能(1号)〈宿泊〉

人手不足分野の即戦力確保を目的とした制度。宿泊分野の試験合格者や技能実習修了者が対象で、最長5年就労可能。フロント・レストラン・客室清掃・館内案内などオペレーションに直接アサインしやすいのが強みです。

在留資格② 技術・人文知識・国際業務(いわゆる「技人国」)

企画・通訳・商品造成・海外営業・予約管理など、専門性が求められるホワイトカラー業務に適合。高度な日本語/英語運用やIT/データ活用ができ、正社員登用・長期キャリア設計がしやすい在留資格です。

在留資格③ 留学生の就職(在留資格変更)

国内の大学・専門学校卒の留学生を、新卒採用で特定技能(宿泊)または技人国へ変更して雇用するルート。学校推薦やインターン経由での母集団形成が可能で、現場適応が速い人材が多いのが特徴です。

在留資格④ 身分系(永住者・定住者・日本人/永住者の配偶者等)

就労制限がないため、シフト柔軟性が高く、深夜・早朝の稼働も組みやすい層。地域密着ホテルや長期定着化を狙う場合に有効です。

外国人ホテル人材を受け入れるメリットとデメリット

メリットは人手不足の解消と多言語接客の強化、デメリットは採用・教育コストとブランド基準のギャップです。レビューサイトの評価やリピーター獲得を左右するため、受け入れ設計(OJT・接遇指導・多言語オペレーション)とコミュニケーション運用が鍵になります。

採用メリット

24時間シフトの安定化(深夜・早朝帯の負担軽減)や、多言語での案内・クロスセル/アップセルの機会創出が最大の強みです。多文化視点は館内導線・表示改善にも寄与し、CS向上とスタッフの活性化につながります。

採用デメリット

デメリットは大きくコスト面業務品質のギャップの2点。初期投資や育成負担は発生しますが、支援機関活用と運用設計で中長期の定着・品質向上に転換できます。

採用・教育コスト

国内採用に比べ、在留手続・ビザ・渡航/住居初期費が必要。紹介/仲介費が発生する場合もあります(自社採用・現地直採用で圧縮可)。制度別の初年度〜継続コスト目安は以下です。

在留資格 費用の目安
1年目 2年目以降
特定技能
(宿泊)
約40〜80万円 約25〜50万円
(登録支援委託がある場合)
技術・人文知識・国際業務 約20〜60万円 約5〜20万円
留学→在留変更(新卒) 約20〜50万円 約5〜15万円
身分系(永住・定住 等) 約10〜30万円 約0〜10万円

加えて、クレーム対応やレビュー運用のナレッジ共有など、現場側のコミュニケーションコストも発生します。SOP整備と「やさしい日本語」対応、館内用語集の共有で早期に平準化しましょう。

丁寧さ・ブランド基準のギャップ

国や現場経験により、接遇レベル・所作・言い回しに差が出やすい領域です。チェックリスト化・ロールプレイ・定期FBで矯正可能。写真/動画SOPは最短ルートでの標準化に効果的です。

日本語・多言語の記録/引き継ぎ

会話は問題なくても、事故/忘れ物/クレームの記録やシフト引き継ぎに時間がかかる場合があります。テンプレ化・定型句ライブラリ・翻訳ツールのルール化で品質と速度を両立できます。

安全衛生・防災理解

館内の安全衛生・防火/避難手順に馴染むまでにギャップが出やすい領域。エリア別のピクト/掲示、多言語訓練、避難経路の実地確認を初期OJTに組み込み、「見て分かる」運用にします。

ホテル採用で人気・応募が多い主な国籍

現場では東南アジア・南アジア出身の応募が厚く、ベトナム/ネパール/インドネシア/ミャンマー/フィリピンなどが中心です。英語圏・中華圏出身者はフロントや予約管理の多言語対応で強みを発揮しやすい傾向があります。

制度別の人材プールの違い

就労ルートにより対象国・スキル傾向が変わります。特定技能(宿泊)は実務直結の試験経由が多く、技人国は語学/企画系の適性が高め、留学→在留変更は日本文化への適応が早いケースが目立ちます。

外国人ホテル人材の採用にかかる費用

給与・社保を除く採用〜運用コストは、在留手続・渡航/住居初期費・紹介/支援委託の有無で変動します。登録支援機関の委託費(月2〜3万円/名の目安)は、生活/職場サポートを外部化する場合の継続費の中心です(自社実施なら不要)。

※金額は相場目安。地域・人材条件・採用手法(自社/現地直/紹介)により前後します。

外国人ホテル人材の採用までの流れ

制度により準備期間が異なるため、開業/繁忙期から逆算して募集・選考・在留手続きを設計します。概ねの目安は次の通りです。

在留資格 目安期間
特定技能(宿泊) 約1〜2か月
技術・人文知識・国際業務 約1〜3か月
留学→在留変更(新卒) 約1〜2か月
身分系(永住・定住 等) 数週間〜1か月

流れ① 特定技能(宿泊)

候補者選定→面接(実技/ロールプレイ推奨)→在留申請→入国/雇用契約→配属。条件が揃えば短期受け入れが可能です。

流れ② 技術・人文知識・国際業務

職務定義/学歴・実務要件確認→面接→在留申請(変更/認定)→入社。予約・販促・通訳・データ分析など専門領域に適します。

流れ③ 留学→在留変更

学校推薦/インターン→内定→在留変更→配属。内製育成と現場適応のバランスが良く、多店舗展開の幹部育成にも向きます。

流れ④ 身分系

在留資格の就労制限がないため、シフト柔軟にアサイン可能。就業規則・SOP教育を早期に完了し、品質を揃えます。

宿泊・ホテルで活用しやすい支援策(例)

初期コストや教育費は、国・自治体の施策で一部軽減できる場合があります。以下は代表例・よくある対象経費です(地域差あり)。

多言語・受入体制の整備補助(自治体)

上限金額 上限 約30〜100万円(自治体により異なる)
主な対象経費 多言語掲示/案内の整備、翻訳・通訳ツール、受入れマニュアル/研修、寮整備の一部 等
窓口例 都道府県の観光/産業振興部局、商工団体 等

人材定着・教育系の助成(国/自治体)

活用イメージ OJT設計、接遇/クレーム対応研修、日本語教育、評価制度整備、DXツール導入の教育費 等
留意点 募集開始前に公募要領を確認し、採用計画と交付スケジュールを同期すること

ホテル人材採用のまとめ

  • 制度選定:初採用や即戦力重視は特定技能(宿泊)が現実的。企画/通訳等は技人国、新卒は留学→在留変更が有力。
  • 人材プール:東南・南アジア中心。英語圏/中華圏はフロント・予約の多言語で強み。
  • 費用感:初年度は制度/採用手法で差(例:特定技能 約40〜80万円)。登録支援を外部化する場合は月次費が発生。
  • リスク対策:写真/動画SOP×ロールプレイ×やさしい日本語で接遇・記録・安全衛生を短期平準化。
  • 支援策:自治体の多言語/受入体制整備補助や教育助成を活用し、初期負担を軽減。

繁忙期から逆算した採用設計と、SOP/教育の型化が成功の鍵です。制度の特徴と費用・期間を把握し、文化・言語ギャップを仕組みで埋め、レビュー評価とリピート率の向上に直結させましょう。