【特定技能】義務的支援10項目を具体例を交えて解説!費用相場、委託方法、自社支援について
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「特定技能の義務的支援って、結局なにをどこまでやればいいの?」と感じている担当者の方は少なくありません。
義務的支援10項目の内容を押さえつつ、費用相場や一部委託・全部委託、自社支援を選ぶ判断軸までまとめて解説します。
合同会社エドミール 代表社員
武藤 拓矢
2018年に外国人採用領域の大手企業に入社し、技能実習・特定技能・技人国の全領域に携わる。のべ600名以上の採用支援実績をもとに、登録支援機関「合同会社エドミール」を設立。2025年には4つの商工会議所で「外国人活用セミナー」の講師を務める。
武藤 拓矢のプロフィール特定技能の義務的支援とは

特定技能外国人を受け入れる企業には、法律に基づき必ず支援義務が発生します。これは「出入国管理及び難民認定法」と「特定技能基準省令」に明確に規定されています。
(特定技能所属機関による一号特定技能外国人支援等)
第十九条の二十二
特定技能所属機関は、適合一号特定技能外国人支援計画に基づき、一号特定技能外国人支援を行わなければならない。
2 特定技能所属機関は、契約により他の者に一号特定技能外国人支援の全部又は一部の実施を委託することができる。出入国管理及び難民認定法
https://laws.e-gov.go.jp/law/326CO0000000319
義務的支援10項目を怠った場合の罰則
義務的支援を怠っても罰金などの金銭的ペナルティはありません。しかし、規定違反が認められた場合、「登録取消」または「登録抹消処分」が下され、最悪の場合はすでに雇用している特定技能外国人の受け入れ継続ができなくなります。
さらに処分を受けた企業は最大5年間、特定技能外国人の受け入れが禁止される可能性があります。実際に行政処分を受け、特定技能外国人の雇用を停止せざるを得なくなった事例がこちらです。

特定技能制度では「知らなかった」「担当者が退職した」では通用しません。制度理解と適切な支援体制の構築が必須です。
特定技能の義務的支援・任意的支援10項目

出典:出入国在留管理庁『1号特定技能外国人支援・登録支援機関について』
特定技能の義務的支援10項目を大きく分けると「導入時」「年数回」「3ヶ月に1回」の取り組みに分けることができます。「10 定期的な面談・行政機関への通報 のために毎月2〜3万円払うの?」と思われますが、実は支援委託費には義務的支援以外の外国人雇用全般の支援が含まれています。
詳しくは「特定技能の導入の大変さは義務的支援以外にある」で解説していますので、そちらをご覧ください。
それでは特定技能の義務的支援10項目を、実際にどのような取り組みが発生するか具体例を交えて解説していきます。s
【導入時】事前ガイダンス
- 雇用契約締結後、在留資格認定証明書交付申請前又は在留資格変更許可申請前に、労働条件・活動内容・入国手続・保証金徴収の有無等について、対面・テレビ電話等で説明
事前ガイダンスは「制度理解」と「安心して働く準備」のために行う重要なプロセスです。実施方法はオンラインでも可能で、実働はおおよそ3時間前後が一般的です。
- 雇用契約書の内容確認
- 支援内容およびサポート方法
- 特定技能制度の概要説明
- 生活・就労ルール(例:借金禁止・転職手続き・社会保険制度など)
ここで重要なのは、単に制度を説明するだけではなく「外国人材の視点に立って伝えること」です。日本人であれば当たり前の内容でも、文化や制度の違いから誤解が生まれ、結果的にミスマッチや早期離職につながるケースが多く見られます。
特に注意すべきポイントが雇用契約書の内容確認です。外国人労働者の離職理由として多いのが、「給与の控除内容を理解していなかった」というトラブルです。
例えば、社会保険料の天引きは日本では一般的ですが、日本の制度に慣れていない外国人からすると「理由の説明なく給料が減っている」と受け止められ、企業への不信感につながることがあります。
また、外国人労働者の中には日本語の読み書きができても話すことが苦手な外国人も多いです。そのため、日本語で伝わらない場合は母国語の通訳の手配が必要です。
出入国する際の送迎
- 入国時に空港等と事業所又は住居への送迎
- 帰国時に空港の保安検査場までの送迎・同行
海外から特定技能人材を採用する場合、初回入国時は企業側が空港まで迎えに行く必要があります。移動手段や生活環境に不慣れな段階でのサポートが義務化されているためです。
一方、既に日本に住んでいる技能実習生からの転職や留学生採用の場合は、自力で会社あるいは自宅まで移動できる場合は送迎は不要です。
住居確保・生活に必要な契約支援
- 連帯保証人になる・社宅を提供する等
- 銀行口座等の開設・携帯電話やライフラインの契約等を案内・各手続の補助
入国後の生活基盤づくりとして、住居手配や連帯保証人の対応、社宅提供などを行います。また、銀行口座開設・携帯契約・水道光熱費などの生活インフラ手続きもサポートします。
生活オリエンテーション
- 円滑に社会生活を営めるよう日本のルールやマナー、公共機関の利用方法や連絡先、災害時の対応等の説明
日本の生活ルールやマナー、交通ルール、災害時の対応方法など、社会生活に必要な基礎知識を説明します。安心して生活を始められるよう、入国直後に行う支援です。
公的手続等への同行
- 必要に応じ住居地・社会保障・税などの手続の同行、書類作成の補助
住民登録・社会保険・税手続きなど、役所で行う必要な申請に同行し、書類の説明や記入の補助を行います。制度理解のズレを防ぎ、手続き漏れをなくすための支援です。
日本語学習の機会の提供
- 日本語教室等の入学案内、日本語学習教材の情報提供等
日本語教室やオンライン学習ツールの案内、教材紹介などを行い、継続的な学習機会を提供します。現場コミュニケーションの向上や定着率改善に重要な項目です。
相談・苦情への対応
- 職場や生活上の相談・苦情等について、外国人が十分に理解することができる言語での対応、内容に応じた必要な助言、指導等
仕事や生活上のトラブルについて、母国語または理解できる言語で相談できる環境を用意し、必要に応じて助言や対応を行います。メンタルサポートの役割も担います。
日本人との交流促進
- 自治会等の地域住民との交流の場、地域のお祭りなどの行事の案内や参加の補助等
地域イベントや自治会、お祭りなどへの参加案内を行い、地域社会との関係構築を支援します。孤立防止や生活満足度向上につながる支援です。
転職支援(人員整理等の場合)
- 受入れ側の都合により雇用契約を解除する場合の転職先を探す手伝いや、推薦状の作成等に加え、求職活動を行うための有給休暇の付与や必要な行政手続の情報の提供
企業側の事情で雇用継続が困難になった場合、再就職先の紹介や推薦状作成、求職活動のための有給付与などを行います。本人保護の観点で義務化されています。
定期的な面談・行政機関への通報
- 支援責任者等が外国人及びその上司等と定期的(3か月に1回以上)に面談し、労働基準法違反等があれば通報
3か月に1回以上、本人と職場責任者と面談し、働き方や生活状況を確認します。もし労働基準法違反などがあれば、行政機関への通報も含め適切に対応します。

2025年4月から定期的な面談が「オンライン可」になり、かつ入管への報告が「3ヶ月に1回」から「1年に1回」に業務が大幅に削減されました。もし登録支援機関選びで支援委託費が2.5万円を超える場合は注意してください。
特定技能の義務的支援の一部委託・全部委託について
特定技能の義務的支援は、企業がすべて自社で実施する必要はなく、外部の登録支援機関へ「全部委託」または「一部委託」することができます。企業の体制・人材数・外国人材の人数に応じて最適な委託方法を選ぶことが重要です。
全部委託
【メリット】
- 支援業務の工数がほぼゼロになり、担当者の負担が大幅に軽減できる
- 制度やルール変更への対応を支援機関側が行うため、運用ミス・違反リスクが低い
- 経験豊富な専門家が対応することで、外国人材とのトラブル防止につながる
【デメリット】
- 委託費用が一部委託より高くなる傾向がある
- 企業内で外国人材の管理ノウハウが蓄積しづらい
- 支援内容が丸投げになり、現場との連携不足が発生する場合がある
一部委託
【メリット】
- 委託費が抑えられ、必要な業務だけ外部化できる
- 企業側にも運用ノウハウが蓄積しやすい
- 自社文化・現場に合わせた柔軟なコミュニケーションが取りやすい
【デメリット】
- 企業側にも支援担当者が必要となり、体制構築に時間がかかる
- 制度理解が不十分な場合、報告漏れや不備が起きるリスクがある
- 支援機関と企業側の役割分担が曖昧だとトラブルの原因になる
特定技能の導入の大変さは義務的支援以外にある
- 特定技能外国人の人材の集客(国内にいる転職組)
- 教育水準が高い海外の送り出し機関の新規開拓
- 外国人定着率向上のノウハウ提供
- 外国人定着のための現場従業員への指導
- 外国人定着のためのマニュアル整備
- 特定技能制度含む在留資格の最新情報のキャッチアップ
- 外国人雇用の助成金活用提案・支援
特定技能制度は「義務的支援が大変」と思われがちですが、実際には制度運用よりも外国人材の採用・育成・定着のほうが難易度が高い分野です。制度に沿った支援は外部委託でカバーできますが、採用戦略や現場との運用調整は企業文化や業務内容に深く関わるため、企業側の取り組みが不可欠となります。
特に、外国人材の集客ルート構築、育成環境づくり、社内コミュニケーション改善などは、制度ではなく経営・人材戦略の領域に近く、多くの企業がつまずくポイントです。つまり、特定技能の導入は「制度対応」だけではなく、「人材マネジメント」として捉えることが成功の鍵になります。
【本音】特定技能の義務的支援で自社支援をおすすめするケース
結論として、特定技能人材が20名以上在籍し、今後も採用人数が増える見込みがある企業は「自社支援」を検討する価値があります。
多くの企業は、登録支援機関へ支払う支援委託費を「義務的支援の代行費用」と考えがちですが、実際は上述したような付加価値が含まれています。
登録支援機関への委託費は、単なる外注費ではなく「専門人材の人件費代替」として捉えると費用対効果がわかりやすくなります。
ただし採用人数が20名〜50名規模になると年間数百万円に達するため、今後も採用を続ける企業は「依存」ではなく自社内へ専門知識を蓄積する方が最終的にコスト最適化につながります。
【公的データ】特定技能の義務的支援にかかる費用相場

出典:厚生労働省『技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第1回)資料』
義務的支援の支援委託費は平均28,386円で、全体の約90%が30,000円以下となっています。中でも最も割合が多い価格帯は20,000円〜25,000円(25.3%)で、これが相場の目安といえます。
なお、費用が高くなる典型例として、技能実習から特定技能へ移行した際に料金が据え置きになっているケースが挙げられます。技能実習での支援委託費は30,000円〜50,000円が一般的なため、そのままの費用体系で請求されてしまう企業も少なくありません。
2025年から支援業務の定期面談が大幅短縮
| 年月 | 項目 | 変更内容 | |
|---|---|---|---|
| 変更前 | 変更後 | ||
| 2025年4月 | 定期面談実施方法 | 対面のみ | オンライン可 |
| 入管報告 | 3ヶ月ごと | 12ヶ月ごと | |
| 2025年10月 | 在留資格「特定技能」の更新 | 1年ごと | 3年ごと |
2025年から特定技能支援に関する手続きが大幅に簡素化されます。4月以降は定期面談がオンライン対応となり、入管への報告頻度も「3ヶ月ごと → 年1回」に変更され、事務負担が大きく軽減されます。
詳しく知りたい方は特定技能の受け入れ費用相場をご覧ください。
人材紹介料(マッチング料)の相場は10〜30万円

出典:厚生労働省『技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第8回)資料』
人材紹介料の相場は10〜30万円未満で、回答の26.9%を占めています。また、40.9%は「支払っていない」と回答していますが、これは以下のケースが考えられます。
- 技能実習から特定技能へ移行したため新規紹介が発生していない
- 企業が自社採用(内製化)している
- ハローワークや自社採用ページ経由で応募があった
基本的には特定技能採用には紹介料が発生しますが、応募や紹介が自然発生した場合は「ラッキー」と認識しておきましょう。
特定技能の義務的支援のよくある質問
- 義務的支援は、外国人材が日本語を話せる場合でも必須ですか?
- はい、N1〜N3レベルで会話ができる場合でも、制度上は「支援不要」と判断することはできません。支援の実施と記録が求められます。
- 義務的支援を途中で自社運用から委託に切り替えることは可能ですか?
- 可能です。ただし、支援体制変更時には支援計画・契約内容を修正し、入管へ届出が必要です。「支援担当者の不在」など空白期間が生じないよう注意が必要です。
- 支援記録はどれくらい保存する必要がありますか?
- 最低5年間の保存が必要です。面談記録・同行履歴・連絡内容・実施証跡など、支援した事実が確認できるデータを保管する必要があります。
- 支援費用は給与控除できるのでしょうか?
- いいえ、支援にかかる費用は企業側が負担する必要があり、外国人本人から徴収することは禁止されています。違反すると罰則や登録取消の対象となります。
特定技能の義務的支援まとめ
特定技能制度では、外国人材の受け入れに伴い「義務的支援」を行うことが企業に求められます。ただし実務では、制度対応よりも、採用・教育・定着設計の方が難易度が高い傾向があります。自社運用が難しい場合は、支援機関への委託も選択肢となります。
制度変更が進む中でも、重要なのは「支援の形ではなく、定着につながる支援ができているか」です。運用しやすい体制を整えながら、継続的なサポートとコミュニケーションを意識することが成功のポイントです。