外国人介護人材の採用方法まとめ【メリット・デメリット、費用、流れ、助成金】

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少子高齢化の進行により、介護業界の人材不足は深刻さを増しています。厚生労働省の試算では、2040年度末までに約57万人の新たな介護人材の確保が必要とされており、採用担当者にとっては持続的な人材確保が大きな経営課題となっています。

出典:介護人材確保の現状について[厚生労働省]

令和6年度時点でも、有効求人倍率は全業種平均が1.15倍に対し、介護職は3.75倍と高止まり。国内採用だけでは充足が難しい状況が続いています。

このため、外国人介護人材の受け入れを進める施設が増加。全産業の外国人労働者数が令和5→令和6で12.4%増に対し、医療・福祉分野では28.1%増と、伸びが顕著です。本文では、採用方法・人気国籍・費用・リスクと対策・採用までのスケジュール・活用できる補助金をわかりやすく整理します。

合同会社エドミール代表社員・武藤拓矢

合同会社エドミール 代表社員

武藤 拓矢

2018年に外国人採用領域の大手企業に入社し、技能実習・特定技能・技人国の全領域に携わる。のべ600名以上の採用支援実績をもとに、登録支援機関「合同会社エドミール」を設立。2025年には4つの商工会議所で「外国人活用セミナー」の講師を務める。

武藤 拓矢のプロフィール

外国人介護人材を採用する4つの方法

外国人が日本で介護業務に従事するには、まず在留資格の取得が必要です。全29種類のうち、介護分野で就労できるのは次の4つです。制度ごとに受け入れ対象・在留期間・試験・手続きが異なるため、自社の人材ポートフォリオ(即戦力/育成、短期/長期)に合わせて選定します。

結論として、採用のしやすさ・即戦力性・在留期間の柔軟さのバランスが良く、初めての受け入れにも適しているのは「特定技能1号」です。

武藤 拓矢

特定技能専門家

武藤 拓矢

結論、介護事業者が最も活用しやすい在留資格は「特定技能1号」です。即戦力として採用でき、生活・職場サポートも登録支援機関を通じて行えるため、初めて外国人材を受け入れる企業にもおすすめです。

在留資格① EPA(経済連携協定)

日本がフィリピン・インドネシア・ベトナムと締結する協定に基づくスキーム。候補者は現地で日本語・介護の基礎を学び来日後に国家試験合格を目指します。合格後は長期雇用が可能ですが、採用までの期間・コストは比較的重めです。

在留資格② 在留資格「介護」

2017年創設。介護福祉士の国家資格を取得した外国人が対象で、在留期間の上限がなく、即戦力採用に向きます。国内の養成校出身者が多く、日本語力・基礎技能が安定しやすいのが特徴です。

在留資格③ 技能実習

本来は国際貢献(技能移転)を目的とする育成型スキーム。介護は2017年から対象で、最長5年。導入コストは抑えやすい一方、在留は期間限定のため長期定着には不向き。監理団体との連携が前提です。

在留資格④ 特定技能(1号)

2019年創設。人手不足分野の即戦力確保が目的で、介護は代表的対象分野。技能実習修了者や、試験合格者が中心。最長5年就労可で、登録支援機関による生活・職場支援が制度上求められます。詳しくは「特定技能「介護」制度を徹底解説」をご覧ください。

外国人介護人材を受け入れるメリットとデメリット

メリットは確実な人材確保と現場の負担軽減、デメリットは採用・教育コストと業務品質のギャップです。施設の評判やケアマネからの信頼維持には、受け入れ設計(OJT・記録指導・認知症研修)とコミュニケーション運用が鍵になります。

外国人介護人材の採用メリット

最大のメリットは、慢性的な人手不足を補い、安定的に人員計画を組めること。特定技能では日本語・技能要件を満たすため、配属初期から現場を下支えできます。多文化視点がケアの選択肢を広げ、職場の活性化や利用者との良好な関係構築にも寄与します。

外国人介護人材の採用デメリット

デメリットは大きくコスト面教育・業務品質の課題の2点です。初期投資や育成負担は発生しますが、支援機関活用と運用設計で中長期の定着・品質向上に転換できます。

採用・教育コスト

国内採用に比べ、在留手続・ビザ・渡航・住居初期費等が必要。場合により送り出し機関・登録支援機関への費用も発生します(自社実施で圧縮可)。制度別のおおよその目安は次表の通りです。

在留資格 費用
1年目 2年目以降
EPA
(経済連携協定)
約70〜100万円 約10〜20万円
特定技能
(介護)
約40〜80万円 約25〜50万円
技能実習
(介護)
約60〜90万円 約40〜60万円
在留資格
「介護」
約40〜80万円 約5〜10万円

加えて、利用者・家族への説明や理解醸成にかかる時間的コストも無視できません。説明会や現場対応を通じて納得感を高めることで、施設全体の信頼向上につながります。費用の詳細は「特定技能制度の費用相場」も参照ください。

仕事の丁寧さに差が出る

文化・仕事観の違いから、初期は作業が大雑把に見えるケースがあります。日本の介護現場では「丁寧さ」「安全確認」が重視されるため、最初は違和感が生じやすいのが実情です。

ただし多くは業務文化の違いに起因します。手順のマニュアル化、チェックリスト、OJTと定期フィードバックで改善は進み、半年程度で十分な水準に到達する例も少なくありません。受け入れ側の文化理解も品質向上に効きます。

介護記録や報告が苦手

会話は問題なくても、読み書き・記録に時間がかかる人は一定数います。情報共有の遅延や記録の質低下は、医療連携・認知症ケアに影響しうるため要留意です。

対応は、統一フォーマット・やさしい日本語の記録例・略語集の整備、タブレットや翻訳支援の活用、日本語教育の導入が有効です。ホウレンソウ手順を具体化し、誤解を減らします。

認知症への理解不足

母国で認知症ケアが一般的ではない場合、症状理解・感情変化への対応に戸惑いがちです。本人の尊厳を守るコミュニケーションが基盤であることを、研修・OJT・成功体験の蓄積で体得していく設計が必要です。

外国人介護人材の採用に人気の国籍

最新データ(令和6年12月時点)では、介護分野の特定技能在留者はインドネシアが最多、次いでミャンマー・ベトナム・フィリピン・ネパール。上位5か国で約9割を占め、東南アジア出身者が中心です。

国籍 構成比(目安)
インドネシア 約35%
ミャンマー 約25%
ベトナム 約20%
フィリピン 約10%
ネパール 約5%

出典:厚生労働省「外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性」

制度別の受け入れ状況

EPA・特定技能・在留資格「介護」など、就労ルートにより対象国や人材プールが異なります。対象の一例は以下の通りです。

制度名 主な対象国
EPA(経済連携協定) インドネシア/フィリピン/ベトナム
在留資格「介護」 主にアジア各国(国内養成校ルート)

出典:徳島県調査報告書JICWELS公式サイト

外国人介護人材の採用にかかる費用

給与・社保以外の採用〜運用コストは制度により構造が異なります。EPAは受入れ負担金や渡航実費等が公表されており、特定技能は在留申請・初期費に加え、登録支援機関の委託料(月2〜3万円/名)が継続費の中心(自社実施なら不要)。在留資格「介護」は収入印紙等の手数料が主で、継続コストを抑えやすいのが特徴です。

特定技能の費用相場については「特定技能の費用相場まとめ」をご覧ください。

参考:EPA候補者受入費用(JICWELS)EPA受入れの手引き厚労省・制度動向資料

外国人介護人材の採用までの流れ

制度により準備期間が異なるため、面接月から逆算して募集・書類・在留手続きを設計します。概ねの目安は以下の通りです。

在留資格 目安期間
EPA(経済連携協定) 約1年〜1年半
在留資格「介護」 約1〜3か月
技能実習(介護) 約6か月〜1年
特定技能(1号) 約1〜2か月

流れ① EPA(経済連携協定)

現地募集・試験→内定→日本語研修(6〜9か月)→在留手続→来日。育成前提で中長期の人員計画を立てたい施設に向きます。

流れ② 在留資格「介護」

国内養成校卒・介護福祉士合格者が中心。候補者選定→面接→在留手続(変更/更新)→入職で、1〜3か月の短期受け入れが可能です。

流れ③ 技能実習

送り出し機関・監理団体と連携し、選抜→面接→現地研修(3〜6か月)→在留認定→来日。6か月〜1年が一般的。最長5年の育成枠として計画。

流れ④ 特定技能(1号)

技能実習修了者や試験合格者を対象に、候補者選定→面接→在留申請→入国・雇用契約。条件が揃えば1〜2か月で配属可能なスピード感が魅力です。

外国人介護人材の採用に活用できる補助金

初期コストや教育費は、国・自治体の補助で一部軽減できます。代表例は「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」と「外国人介護人材受入環境整備事業」です。

人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)

上限金額 最大80万円(補助率3/4)
主な対象経費 多言語マニュアル作成/通訳・翻訳ツール導入/安全掲示の多言語化/教育・相談体制の整備
公式サイト 厚生労働省|人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)

受け入れ初期の環境整備に有効。通訳基盤や「やさしい日本語」運用の仕組みづくりに充当できます。

外国人介護人材受入環境整備事業

上限金額 上限 約30〜100万円(自治体により異なる)
主な対象経費 日本語教育/生活支援・相談窓口整備/受入れマニュアル・研修資料作成/通訳・翻訳・研修講師委託
公式サイト 介護労働安定センター|外国人介護人材受入環境整備事業

自治体実施のため要件・金額は地域差あり。申請スケジュールを早めに確認し、採用計画と同期させるのがコツです。

外国人介護人材の採用まとめ

  • 制度選定:初採用や即戦力重視なら特定技能1号が現実的。長期雇用は「介護」、育成前提はEPA・技能実習。
  • 人気国籍:インドネシア/ミャンマー/ベトナムが中心(上位5か国で約9割)。
  • 費用感:初年度の目安は制度で差(例:特定技能 約40〜80万円)。運用は登録支援の有無で変動。
  • リスク対策:丁寧さ・記録・認知症理解はマニュアル×OJT×日本語支援で短期改善可能。
  • 補助金:人材確保等支援助成金/受入環境整備事業で初期負担を軽減。

人手不足の解消に向け、制度の特徴と費用・期間を把握し、文化・言語のギャップを教育設計で埋めることが成功の鍵です。補助金を組み合わせ、採用〜定着〜品質向上まで一気通貫で設計しましょう。