外国人労働者の離職率は日本人よりも高い?現状・原因・対策・定着方法を紹介
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初めて外国人労働者を受け入れる企業の多くが、「外国人は離職率が高い」「すぐ辞めてしまうのでは?」という不安を抱えています。
しかし、実際の離職率は“採用方法や教育体制、コミュニケーション環境”によって大きく変わります。つまり、外国人労働者だから離職率が高いのではなく、環境づくりや受け入れ体制が整っていないことが原因です。
本記事では、外国人労働者の離職率の現状データ、離職理由、日本企業で起こりやすい課題、そして長期定着につながる対策方法まで網羅的に解説します。「採用したのに続かない…」「どこから改善すべきかわからない」という企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
合同会社エドミール 代表社員
武藤 拓矢
2018年に外国人採用領域の大手企業に入社し、技能実習・特定技能・技人国の全領域に携わる。のべ600名以上の採用支援実績をもとに、登録支援機関「合同会社エドミール」を設立。2025年には4つの商工会議所で「外国人活用セミナー」の講師を務める。
武藤 拓矢のプロフィール外国人労働者数の現状
厚生労働省が2025年1月に発表した『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ』によると、外国人労働者数は230万人を突破し、届出制度が始まった平成19年以降、過去最高を更新しました。

(画像引用元)【厚生労働省】別添2「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】
グラフを見てもわかる通り、外国人労働者数は年平均10%以上のペースで増加し続けています。さらに、2025年には新たに在留資格「特定活動(デジタルノマド)」が導入され、2024年4月には「特定技能」の対象分野が拡大されました。これらの制度改正により、今後も外国人労働者が増えることが見込まれます。
続いて、外国人労働者の国籍別内訳について見ていきます。
【国籍別】外国人労働者の現状

(画像引用元)【厚生労働省】別添2「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】
国籍別では、ベトナム57万人、中国40万人、フィリピン24万人の3カ国で全体の約50%を占めています。次いで、ネパール18万人、インドネシア17万人、ブラジル14万人と続きます。
さらに、増加率の大きい国籍を見てみましょう。
| 国籍 | 増加率 |
|---|---|
| インドネシア | +56.0% |
| ミャンマー | +49.9% |
| ネパール | +23.2% |
さらに在留資格別の外国人労働者の人数も見ていきます。
【在留資格別】外国人労働者の現状

現在、日本で最も多い在留資格は「専門的・技術的分野」で、718,812人(31.2%)となっています。この数値は、届出が義務化されて以降、過去最多です。
この「専門的・技術的分野」は合計16種類の在留資格を含む総称ですが、実際の構成を見ると約9割以上が「技術・人文知識・国際業務」と「特定技能」の2区分に集中しています。
在留資格を分類すると、多い順に「身分に基づく在留資格」→「技術・人文知識・国際業務」→「留学」→「特定技能」という構成となります。
| 国籍 | 増加率 |
|---|---|
| 技能実習 | 470,725人 |
| 技術・人文知識・国際業務 | 411,261人 |
| 永住者 | 382,872人 |
| 留学 | 311,996人 |
| 特定技能 | 206,995人 |
【産業別】外国人労働者数の現状

出典:④外国人の労働移動の分析
産業別に見ると、最も外国人労働者が多いのは「製造業(26.0%)」で、次に「サービス業(15.4%)」が続きます。
それでは、ここからは本題である「外国人労働者の離職率」について解説します。日本人と比べてどれくらい差があるのか、また離職が起きる原因や企業が取るべき対策について順に説明していきます。
外国人労働者と日本人労働者の離職率を比較する
| 日本人労働者 の離職率(2024年) |
外国人労働者 の離職率 (2019年) |
|---|---|
| 15.4% | 29.4% |
外国人労働者の離職率 出典:厚生労働省『外国人雇用の状況について』
日本人労働者離職率 出典:厚生労働省『令和5年雇用動向調査結果の概況』
最新データでは、外国人労働者の離職率は29.4%、日本人労働者は15.4%となっており、外国人労働者の離職率は日本人の約2倍にのぼります。数字だけ見ると、外国人労働者の定着率にはまだ課題があることがわかります。
外国人労働者の離職率が46%というデータをよく見ますが、このデータは2001年に厚生労働省が公表した「外国人雇用状況報告(平成13年6月1日現在)」から引用されたデータで、20年以上も前であり、かつ調査数は約22万人と信ぴょう性に欠けるデータです。誤解のないよう気をつけましょう。
また、「外国人労働者」と一括りにされていますが、実際には在留資格・業種によって離職率は大きく変わります。そのため、ここからは外国人労働者の中でも人数が特に多い「技術・人文知識・国際業務」と「特定技能」に絞り、それぞれの離職率を解説します。
なお、「技能実習」は制度上転職ができない仕組みのため、離職率の比較対象から除外しています。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」の離職率
一般的なオフィスワークで働く場合で用いられる在留資格が「技術・人文知識・国際業務」で、通称「技人国(ぎじんこく)」と呼ばれる在留資格です。
日本語レベルも非常に高いため、日本人と同じと捉えていただいても問題ありません。
在留資格「特定技能」の離職率
特定技能人材の離職率は16.1%と、外国人全体の離職率よりも低い数字でした。離職理由と構成費は下記のとおりです。
| 在留状況 | 人数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 帰国 | 6,061人 | 31.4% |
| 転職 | 5,852人 | 30.3% |
| 在留資格変更 | 2,915人 | 15.1% |
| 非該当 | 4,471人 | 23.2% |
出典:出入国在留管理庁の資料
※ 自己都合による離職後の在留状況をフォローアップしたもの。届出後の対応により復職した者を除くなどしているため、離職総数とは一致しない。
退職で最も多い理由が「帰国」です。特に注意が必要なのが、「脱退一時金制度」により一時帰国した際に、家族との時間が恋しくなり、そのまま帰ってこないケースが発生しています。脱退一時金についての対策は「日本でののべ勤務年数が5年近辺の人材は注意」と覚えておきましょう。
脱退一時金について詳しく知りたい方は「脱退一時金」について詳しく解説している記事をご覧ください。
また、特定技能は16分野を指す言葉であり、離職が最も多い分野は「飲食料品製造業」で39.2%で、最も低い分野が「航空」で10.1%と、分野によって4倍近くの差があり、分野ごとに離職率は確認する必要があります。
特定技能人材の離職率について詳しくは特定技能人材の離職率をご覧ください。
外国人労働者が離職する理由・原因
外国人労働者が日本人よりも2倍以上も離職率が高い原因の根本は「文化の違い」に集約されますが、この文化の違いがどのようなシーンで発生してしまうのか、具体的に見ていきます。
なお、外国人労働者の離職理由について詳しく知りたい方は「特定技能外国人の離職理由」をご覧ください。
理由①労働条件が事前説明と異なる
外国人労働者の支援をしていると、離職につながる最も多い原因が、「労働条件が事前説明と異なること」です。特に給与・勤務時間・休日・残業量などの条件が採用前の説明とズレている場合、外国人労働者は「騙された」「信用できない」と感じ、早期離職につながりやすくなります。
日本人であれば、「最初は仕方ない」「今後改善されるだろう」と受け止めることもありますが、外国人材の場合、契約書=約束という認識が強く、実態が異なると精神的ショックが大きくなります。
- 「残業あり」と聞いていたのに、実際はほとんど仕事がない
- 「昇給制度あり」と説明されたのに、仕組みが存在しない
- 「給与は◯万円」と言われたのに控除後の手取り額が大幅に違う
特に、給与の控除項目(家賃・水道光熱費・社会保険料など)が事前に共有されていない場合、最初の給与明細で不信感が一気に高まるケースが多くあります。
そのため、外国人採用を行う企業では、専門家を面接に招いて面接を行う、あるいは労働条件通知書で重要なポイントが何かを確認してから面接・採用することをおすすめします。
理由②給与含む待遇についての不満
外国人労働者の離職で最も多い理由が「給与含む待遇」により転職です。昨今の日本人は「Z世代」と呼ばれ、「給料が低くても良いから休みが大切」という価値観が広く浸透してきましたが、外国人労働者は真逆で「残業があっても良いから給料は高い方が良い」という価値観が一般的です。
彼ら・彼女らは「家族のために稼ぎにきている」のであり、残業が増えても良いから基本給が高いことを好みます。なので、彼ら・彼女らは「給料主義」という前提で労働条件を決めてあげることが重要です。
また、外国人労働者が努力し続けるとどのように給料に還元されるかの「ロードマップ」を作成することもおすすめします。「この技術を覚えたら昇給」など、わかりやすいロードマップを作成してあげることが、長期定着に寄与します。

ベトナムなど日本に住んでいる人口が多い国籍の人材は注意が必要です。彼ら・彼女らは同じ国籍同士のコミュニティがあり、そのコミュニティ内で給料の話をし、安易に「友達の会社の方が給料が高い」といった理由で離職してしまうケースがあります。重要なポイントは、人材側と本音で話し合えるコミュニケーションを取れる状態にしておくことです。
理由③帰国してしまう
外国人労働者の離職理由として最も多いのが「転職」ではなく「帰国」してしまうパターンです。
公的データとして数値化された調査はありませんが、現場感覚として帰国理由は次の3つに集約されます。
- 一時帰国中に家族の病気が発覚し、日本へ戻れなくなる
- 久しぶりに家族と過ごしたことで、日本での生活に意味を見いだせなくなる
- 同じ国籍の仲間が先に退職・帰国し、孤独感から同調して帰国する
特に注意が必要なのが「脱退一時金制度」です。この制度は、日本で厚生年金に加入していた外国人が帰国後に一部を受け取れる仕組みで、勤務年数が5年に近づくと帰国意欲が高まりやすいと言われています。
そのため、採用する人材の候補者がたくさんいる場合は、できるだけ脱退一時金をすでに申請済みの人材を優先的に採用するのも一つの手です。すでに脱退一時金を受け取っている人材であれば、一時帰国によるリスクを軽減することができます。
理由④国民性の理解不足による精神的ストレス
外国人労働者の離職理由として見落とされがちなのが、国民性への理解不足による精神的ストレスです。同じ指導でも、国籍によって受け取り方が大きく異なることがあります。
例えば、インドネシア人材の場合、人前で叱責されると「人格を否定された」と受け取ってしまう傾向があり、強いストレスから職場に行きづらくなったり、急に退職を選択してしまうケースが少なくありません。
これは能力や性格の問題ではなく、育ってきた文化や価値観の違いによるものです。日本では「叱る=改善のため」「注意される=成長のチャンス」と考える傾向がありますが、多くの外国人材にとって、叱責=拒絶・失望・信頼喪失と捉えられます。
国籍別の宗教・価値観を、受け入れる企業の現場の労働者が理解しておく必要があります。
理由⑤マニュアル不整備による不安・ストレス
外国人労働者が働く環境で意外と多い離職理由が、「仕事の進め方が曖昧で理解できない」というケースです。特に製造業やサービス業では、経験値や空気感で業務を進める場面が多く、言語・文化が異なる外国人材にとって「正解がわからないまま作業を続ける状態」は大きなストレスにつながります。
例えば同じ指示でも、日本人は状況に応じて解釈できますが、外国人労働者の多くは「明確なルール」や「再現性のある手順」を求めます。
- 「急いで」=どの程度の速さ?
- 「丁寧に」=何が基準?
- 「もう少し頑張って」=どこを改善すべき?
このように曖昧な表現は、外国人材にとって「正しいか間違っているか判断できない指示」となり、結果的に萎縮・不安・失敗の連鎖につながります。
そのため、外国人労働者の受け入れを行う企業では、次のような取り組みが効果的です。
理由⑥会社特有の日本語
職場で使われる専門用語や略語、現場独自のルールは、日本人でも理解が難しいことがあります。
外国人労働者にとっては、意味が曖昧なまま作業が進むことで不安やミスを生み、結果的に自信喪失や疎外感につながります。外国人が在籍する現場では、言い換え・可視化・共有ルール化が重要です。
理由⑦キャリアプランが明確でない
外国人労働者は「どれだけ努力すれば、どんな未来が得られるのか」を重視します。
昇給基準や役職ステップが曖昧な職場では、将来が見えず転職や帰国を選びやすくなります。評価制度やキャリアマップを公開し、将来像を示すことで長期定着につながります。
外国人労働者の長期定着を実現するための離職対策方法
対策①外国人労働者とのコミュニケーション
コミュニケーション量は定着率に直結します。特に採用人数が少ない環境や、外国人労働者が初めての企業では、言語・文化・生活環境すべてが不安の対象です。
業務指示だけでなく、日常会話や雑談など、心理的距離を縮める機会を意図的に作ることが重要です。

外国人労働者の国籍の母国料理を一緒に食べる取り組みは、人材側との距離をグッと縮めることができるのでおすすめです!
対策②外国人労働者のメンターを選任する
日本人社員の中から相談役(メンター)を設定することで、孤立を防ぎ、心理的サポートができます。業務だけでなく、生活面や制度面の相談ができる人の存在は、働き続ける上で「安心材料」になります。特に最初の3ヶ月は離職率が高いため、密なフォローが効果的です。
対策③専用の教育マニュアルを用意する
業務マニュアルがない職場は、外国人労働者にとって非常に働きづらい環境です。写真・動画・図解を使ったマニュアルは、言語差を補い、理解スピードを高めます。また、教育担当者による指導のばらつきも防ぐことができます。
対策④文化の違いを理解する研修を社内で実施する
企業側が外国人材の文化や価値観を理解することも重要です。宗教・食事・休日・コミュニケーションのスタイルなどを事前に知っておくことで、不要なトラブルや誤解を減らし、双方が働きやすい環境を整えることができます。

現場の従業員に、国籍別の宗教観・価値観の違いを理解してもらうことは非常に重要です。
対策⑤キャリアプランを事前に提示する
「何年働けば昇給するのか」「どのスキルを習得すると役職に上がれるのか」など、キャリアの見通しがある職場ほど定着率は高くなります。特定技能2号や正社員登用などの制度がある場合は、早い段階で提示することで安心感につながります。
外国人の離職でよくある質問
- 外国人労働者の離職は防げますか?
- 完全にゼロにはできませんが、受け入れ体制の整備やコミュニケーション方法の工夫により、離職率は大きく改善できます。特に、労働条件の透明化・マニュアル整備・キャリア提示は効果が高い取り組みです。
- 離職しやすい外国人材の特徴はありますか?
- 特徴よりも、環境とのミスマッチが離職につながります。給与体系が曖昧、相談相手がいない、評価基準が不明など、制度や教育不足が原因になるケースが多く、「人材の質」ではなく「受け入れ側の仕組み」が鍵となります。
- 言語の壁がある場合、どのように教育すべきですか?
- 文章や説明よりも「視覚情報」を活用することがポイントです。写真・動画・手順書・翻訳アプリなどを組み合わせることで、教育効率が大きく向上し、誤解やストレスを防ぐことができます。
- 定着率を上げるために最初に取り組むべきことは?
- 最初に着手すべきは「労働条件と実態の差をなくすこと」です。給与・控除・残業・評価制度を事前に整理し、採用時点で明確に伝えることで、不信感や早期離職を防ぐことができます。
外国人労働者の離職は適切に対応すれば大幅に改善できる
外国人労働者の離職率は日本人と比較すると高い傾向がありますが、それは「外国人だから辞めやすい」のではなく、言語・文化・制度への理解不足や、受け入れ体制の不備が原因です。
労働条件の透明化、コミュニケーション環境、マニュアル整備、キャリア提示といった基本的な仕組みを整えることで、離職率は確実に下げることができます。特に特定技能や技人国の採用では、最初の数ヶ月のフォローが定着の分岐点になります。
外国人材は適切なサポートと環境が整えば、企業にとって長期的な戦力になります。「採用したけれど続かない」「どう定着させればよいか分からない」という企業こそ、今日からできる対策から始めてみてください。